性にまつわる事件が県内で減らない。報道を見聞きするたび、怒りでいっぱいになる。人権を踏みにじられ、被害者は生きる意欲や夢、希望まで奪われる。医療機関などと連携し、被害者を支援する新たな仕組みができた。同時に、加害者を生まない社会づくりと、自分の身は自分で守るという考え方も重要だ。

 県警本部のまとめによると、今年1月から5月末までに認知された性犯罪などは148件で、前年同期と比べ54件多い。内訳は女性暴行5件、強制わいせつ30件、声掛けや公然わいせつなどが113件。警察に届けないまま闇に埋もれた事例も多いとみられる。平成22年は、女性暴行と強制わいせつ事件の加害者のうち、3人に1人が被害者と「知り合い」だった。

 性犯罪の実態に理解を求める集いが先月、福島市で催された。ふくしま被害者支援センターと県警が主催した。女性デュオ「PANSAKU[ぱんさく]」のボーカルぱんさんがギターを弾きながら被害を打ち明けた-。深夜、コンビニに止めていた車に見知らぬ男が乗り込んできた。恐怖と驚きで抵抗できなかった。「どうして鍵を掛けなかったのだろう」。自分を繰り返し責めた。心も体調も崩す。

 当事の体験を語るのは、今でもつらいに違いない。それを押して活動するのは、声を出せないでいる被害者に届けたい言葉があるからだ。「あなたは少しも悪くない。大切な人だよ」。追い詰めない周りの優しさと、社会的支援の充実をも訴えた。

 県警は性暴力の実態について高校などでも講演会を開いている。女性警務部長が先頭に立つ。直接出向いて、被害者支援の仕組みも紹介する。異性に関心を高める時期の高校生が、「性」を通して「生」を学ぶ学習は有意義だ。合わせて、護身術を学ぶ機会があれば心強い。

 県警と被害者支援センター、県産婦人科医会が先月、性犯罪被害者支援で覚書を取り交わした。三者が連携、協力して、被害者の心と体の回復を支えていく。県内71産婦人科が協力する。医療機関での対応が被害者の人生を左右する場合がある。医師の他、窓口スタッフや看護師らの共通理解が欠かせない。十分な研修が必要となろう。

 いつ、どこで危険に遭遇し、身近な人が巻き込まれるかもしれない。被害実態や支援の内容を知り、家庭でも話し合ってほしい。被害者の心を癒やすのは、加害者の処罰が前提だ。勇気を持って届けることから始まる。(多田 勢子)

http://www.minpo.jp/news/detail/201207032282福島民報

( 2012/07/03 10:16 カテゴリー:論説 )

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