東日本大震災では、多くの女性がプライバシーが保たれない長期の避難所生活を余儀なくされた。

 阪神大震災以降、国の「男女共同参画基本計画」に新たな取り組みを必要とする分野として「防災・災害復興」が盛り込まれたものの、現実とのギャップは大きい。

 南海地震が迫る本県においても、同様の問題が起こる可能性は高い。防災会議などへの女性の参画を進め、多様な住民のニーズが反映される仕組みづくりを急ぎたい。

 東日本大震災での避難所生活で、最も切実だったのがプライバシーの問題だ。間仕切りや更衣室がない避難所が多く、女性たちは着替えや授乳などで男性以上の苦労を強いられた。

 男女のトイレが隣り合っていることで夜間の利用に不安を感じたり、男性の目が気になり洗濯物を干せないなど不便は生活全般に及んだ。逃げ場がない集団生活の中で、女性が性被害に遭う悲劇も起こっている。

 生理用品の支援物資が男性から配られるなど、女性への配慮を欠いた対応も少なくなかった。避難所運営のリーダーのほとんどが男性であるために、女性が声を上げにくかったり、訴えても理解してもらえないといった問題が数多く指摘されている。

 その一方で、女性が運営に関わっている避難所では、プライバシーが確保され、女性用トイレに基礎化粧品が用意されるなど、きめ細かな配慮が見られたという。地域で女性リーダーを育て、増やすことがいかに重要かを裏付けるエピソードといえよう。

 現実はというと、都道府県の地方防災会議の女性委員の割合は、4月現在で4・5%にとどまる。東日本大震災の教訓も踏まえ、2012年版の「男女共同参画白書」は女性の視点を生かした災害対応の必要性を強調する。

 ●生かしたい教訓

 災害時の対応では「リーダー=男性」「炊き出し=女性」など、性別役割分担意識が顕在化しやすい。こうした現状に対し、中央防災会議の委員を務めるNPO法人イコールネット仙台代表理事の宗片恵美子さんは「地域の実情や多様な住民のニーズを把握している女性だからこそ、地域の防災に貢献できる」と訴える。

 女性の視点を防災に生かすことは、女性のみならず、多くの住民へのきめ細かい支援につながるというわけだ。

 宗片さんは高知市など各地で活動報告を行うとともに、宮城県内の女性グループなどと行った被災女性への支援の記録「女たちが動く―東日本大震災と男女共同参画視点の支援」(生活思想社)の発行を通し、大震災で浮き彫りになった問題の周知に努めている。

 記録の中には、性同一性障害の人が避難所で支援の谷間に置かれた実態など、これまであまり注目されてこなかった課題も提起されている。

 だが、人権やプライバシーを重視する価値観は、一朝一夕に育たないのも事実だ。男女共同参画同様、日常での啓発などを通し、時間をかけて理解を深めていくべきものだろう。

 本県においても、高知市が3月に女性職員で「女性の視点による南海地震対策検討委員会」を発足させるなど、新たな流れを踏まえた取り組みが始まっている。他の市町村にいかに波及させていくかも課題だ。

 阪神、東日本大震災と、被災女性たちから引き継がれてきた教訓を、南海地震に生かさなければならない。

【地域の防災力】災害対応に女性の視点を 高知新聞・社説
2012年06月25日08時26分
http://www.kochinews.co.jp/?&nwSrl=290049&nwIW=1&nwVt=knd

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