2012年12月8、9日に、東京大学本郷キャンパスにて、「復興元年を総括するー持続可能な社会の条件」という連続セミナーが開催されました。一日目は「東北の女性はなぜ立ち上がったのか―ジェンダーと多様性」、二日目は「食・雇用・コミュニティ―生存と持続可能性へのチャレンジ」というテーマで、被災地で復興に力を尽くしている女性たちを招いての報告と研究者によるコメント、フロアからの質問も交えての総括討論が行われました。メンバーの一人が二日目に参加し、レポートを書いてくれました。

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セミナーでは、まず、水産経済の専門家である加瀬和俊東京大学社会科学研究所教授が「沿岸漁業復興の論理と課題―持続可能な地域社会を展望して」と題する基調報告をおこない、次に被災地の女性たちによる現地からの発信があり、それを受けて、農山漁村とジェンダーを研究テーマとする中道仁美愛媛大学准教授がコメントしました。

東日本大震災と津波、原発事故は、沿岸部で漁業を生業としている人びと、農業に従事している人びとにとって大打撃を与えました。とりわけ女性たちはどのような困難を抱え生きようとしているのか、このセミナーを通じて女性たちの声を紹介します。
 

●盛合敏子さん(岩手県漁業協同組合女性部連絡協議会会長)

「重茂の漁業と女性の今――結が生み出す新しい漁業の可能性と課題」についてお話されました。

盛合さんが住む宮城県宮古市重茂(おもえ)地区は、本州最東端、リアス式海岸と健全な漁港として評価が高い地域です。天然わかめ漁、天然こんぶ漁、うに漁などが盛んで、女性も、サッパ船と呼ばれる小型の漁船に乗り操船を担当します。1963(昭和38)年から養殖漁業もはじめました。重茂では、漁協が「月給制」をおこなっていて、組合員に支給しています。

東日本大震災では、地域住民1600人のうち50人が亡くなり、船816隻中、800隻を失いました。重茂地区は、「漁業で暮らしていける地域」ですが、その中心には漁協があります。発災から1ヶ月後、組合長が船の所有の共同化を宣言し、水揚げは漁協が一括して売上金を配分しました(岩手県では漁業復興のモデルとされています)。一方、浜の女性たちが代々つくりあげてきたコミュニティである「結」が震災時にも活躍しました。地域、住民の顔、世帯員の様子に精通している女性だからこそ、下着のサイズから子どもや老人の安全確認まで、ニーズをすくいあげられたのです。

このように女性も漁に出ていて地域コミュニティも女性なしでは成り立たないのに、漁業/漁協においても家庭内でも、女性は補助的な力としかみなされていません。漁協でも「女性部」はあくまで下部組織であり、漁協の方針を決定する場に女性が出られないのです。女性の労働力は同等にみられず、しかし「やって当然」と思われています。組合員は「一家に一人」という原則で、父親が正組合員、息子が准組合員というケースはありますが、女性は正組合員にはなれません(例外として夫を亡くした場合などは組合員になることが認められ、現在16名の女性組合員、3名の准組合員がいます)。したがって、組合での漁業復興のための話し合いにも、女性たちは直接加わることはできませんでした。

他方重茂では、人口が減っています。1965(昭和40)年には400世帯でしたが、2009(平成21)年には181世帯、震災を経て2012(平成24)年には128世帯に減りました。漁業は、きつい、危険、高齢化など、後継者育成など課題がたくさんあるといいます。盛合さんは、女性の力を正当に評価した漁協や地域づくりの展望をもちたいと考えており、水産加工品販売など6次産業化も検討したいが、現在の漁協のしくみでは難しいとのことでした。

 

●伊藤恵子さん(宮城県美里町農業委員、「みやぎアグリレディス21」会長)

「女性農業者からの発信;六次産業の突破力と農業再生」と題して体験を語りました。もともとは酪農家でしたが、生産調整で牛乳を捨てた経験から、生産物に付加価値をもたせたいと農家レストランをはじめました。

1999(平成11)年「男女共同参画基本法」が制定され、当時の農業委員会の会長から「男女共同参画社会」の実現のために、農業委員に立候補することを薦められました。「女のくせに」と男性からも女性からも足を引っ張られましたが、会長の後押しもあり当選を果たしました(農業委員には、立候補による公選委員と推薦による選任委員があります)。宮城県では、当時は女性農業委員は7名、現在は63名いますが、男性農業委員は713名に対して女性農業委員の割合は8.8%しかありません。女性農業委員が不在の市町村が宮城県内に8市町村あるそうです。

震災後、沿岸部では女性農業委員が増えました。震災体験が女性の力の見直しにつながっている例もあります。女性農業委員は、女性農業者の相談に乗るなど、伝統的な地域社会で地道な活動をいろいろ行うことで、地域を変えていく力になりました。伊藤さんも女性農業委員の不在地域で女性農業者との懇談をおこなったそうです。生産、経営、介護などを女性が手掛けている中で女性農業委員のいる意味は大きいといえます。たとえば、農産加工業や直売所、農家レストラン、家族経営協定の締結、認定農業者の共同申請など多角的な相談に応じています。

6次産業化については、女性の補助的産業という見方ではなくきちんと評価してほしいと思っています。コミュニティの場としての「農家レストラン」を再建し都会に紹介したいそうです。現在、2名が「農家レストラン」に取り組もうとしていますが、用地は農地のため許可がすぐおりない、また、女性はなかなか融資が受けられない、個人には補助金が出されない、手続きに煩雑な書類が必要など、いくつもハードルがあるので簡素化してほしいとの要望があります。

沿岸部は地盤沈下や塩害のため農業再興はむずかしいので、農業の法人化・6次産業化が必要だと伊藤さんは思っています。それには女性農業者の意識を変え、女性自身が参画の意識をもつべきであると主張されました。
 

●渡邊とみ子さん(「かーちゃんの力プロジェクト協議会」会長)

「ここで生き、育み、伝える」福島県――原発事故からのコミュニティ復興」というタイトルでお話されました。

渡邊さんは福島生まれで、結婚して飯舘村に住むことになりました。活動の原点は飯舘村にあります。飯舘村は「若妻の翼」の実施(ヨーロッパ研修)など女性の参画を早くからおこなっており、地域活動にも参加しやすい環境がありました。

そのひとつである「イータテベイクじゃがいも研究会」は2005(平成17)年に立ち上げられました。渡邊さんは、植物防疫補助員という資格も取得して生産・販売に力を入れている矢先に震災・原発事故により畑も加工工場も失いましたが、あきらめないで種繋ぎをしていて、いつか世界に紹介したいという夢をもっています。

かーちゃんの力プロジェクト」は、震災後、福島大学の千葉悦子教授からの呼びかけではじまりました。阿武隈地域のネットワークを使って一人一人に呼び掛けて回り、消極的な女性もいましたが、渡邊さんがリーダーになるならと少しずつ参加者が増えているそうです。

昨年末、震災支援で新潟からもち米5俵を提供してもらい「結もちプロジェクト(Facebook)」をはじめました。今は、お弁当づくりをしています。自分たちで放射線量の基準を決め、検査に出しているのですがミキサーでぐちゃぐちゃになって返ってくるのを見ると悲しいといわれました。今は、県から補助金を受けて12名の女性を雇用し給料を支払っています。(渡邊さんは雇用主のため給料はありません)。行政との摩擦もあったそうですが、何とか若い世代につなげて希望をもっていきたいと締めくくりました。

 


 

3人の女性たちのバックグラウンドは異なりますが、伊藤さんや渡邊さんの住む地域では、行政や農協などが震災前から男女共同参画の視点を取り入れた施策をおこなっていたことが、被災後のお二人の活動につながっていることに注目すべきと思います。また、盛合さんの地域の漁協は、先進的な経営や環境保護策などで優れた活動をされてきました。しかしながら男女共同参画視点は少なく、また、漁協のしくみもあり、農業と比べると困難な状況にあることがわかりました。

これらの地域にとどまらず、農業も漁業も高齢化が進んでいることがコメンテーターから指摘され、それは大きな問題です(農業人口の6割とされる女性農業者も減少傾向にあります)。それと震災・復興以前にこれらの地域では市町村合併が進み、地域力のようなものが削がれてしまっているということが感じられました。

男女共同参画視点からの復興施策として、そして、第1次産業の生き残りの戦略として「6次産業化」がいわれていましたが、一方で、大規模農家しか生き残れない、「特区」政策による漁場の囲い込みなどが進むといった第一次産業の基盤そのものが解体されていく状況に男女共同参画の視点からはどう対応するのかといった疑問が個人的な感想として残りました。

お話を伺った盛合さん、伊藤さん、渡邊さんたちは、震災後も地域の課題に対して前向きにとり組んでいる印象を受けました。東日本大震災女性支援ネットワークとしても今後農山漁村の女性たちとのつながりを強め、情報の相互交流を図り、日本の農業・漁業とジェンダーについて考えていけたらと思いました。

(参考)
福島大学行政学類教員である myriel_june さんによるツイートメモのまとめ
「食・雇用・コミュニティ――生存と持続可能性へのチャレンジ」――GCOE特別連続セミナー2日目
http://togetter.com/li/420898

1日目「東北の女性はなぜ立ち上がったのか――ジェンダーと多様性」まとめ
http://togetter.com/li/420881

報告者 小林淳子

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