「近くの部屋から、お父ちゃんの大きな怒鳴り声がしょっちゅう聞こえる」
昨年末、福島県内の仮設住宅の入居者が社会福祉協議会に相談にきた。数十戸並ぶプレハブの一戸。保健師らが「怒鳴り声」の主の夫婦を訪ねると、ただのけんかだ、暴力はふるってないという。その後も訪問を続け、見守っている。
「仮設暮らしで人間関係をうまく作れない中高年男性が多い」と社協の担当者は話す。雪が降り積もる日々。失業に焦りをつのらせる人、無気力になる人。狭い仮設に閉じこもりがちになって、妻に当たり散らす。
東北の冬は、まだまだ長い――。
福島県郡山市では「女性の自立を応援する会」が昨年9月から週1回、電話相談をうけてきた。今月上旬までに相談は56件。このうち3割にDV(配偶者やパートナーからの暴力)が絡んでいるとみる。こんな相談もあった。
〈放射能のために屋外に自由に出られず落ち着かない子ども。夫に相談しようとしたら、キレて物を投げつけられた。結婚前から手が出る人だったけれど……。いまは放射能をどう避けようかと毎日精いっぱいで、夫のひどい言動に耐えられない〉
相談員の丹羽麻子さん(46)は「妻や母として役割を果たさなければという意識が強い女性たち。頑張りが足りない、と自分を責めてしまう」という。声高に「家族の絆で復興へ」といわれるのも重荷になる。「絆というきれいな言葉にとらわれ、がんじがらめになっていく。美談の陰に家族関係の悩みを背負いこむ女性がいる」
一方、放射能から子どもを守るため、夫を残して母子で福島県外に避難したケースも多い。「そこでも放射能への対応のギャップをきっかけに、夫婦関係の問題が表面化する」。福島でも相談活動をしている「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」(東京)の大矢さよ子さん(61)は指摘する。避難先でいわば「準母子家庭」となり、離れた夫とぎくしゃくしてしまうのだ。
「戻ってこないなら、生活費を打ち切って離婚する」。娘2人を連れて昨春、福島から関西に避難してきた40代の女性は夫から通告された。
「男が掃除や洗濯をするなんて世間体が悪い。近所で避難している人もいない。帰ってきて親の世話をしてくれ」と夫は言いつのる。「娘を放射能から少しでも遠ざけたいのに、これからの生活について話し合おうとさえしてくれない」と女性は嘆く。
暮らしていたのは福島第一原発から50キロ離れたまち。警戒区域外ではあるが、県外避難している人は多い。
女性は、夫から離婚をつきつけられて言葉を失ったが、いまは自立にむけ職業訓練を受け始めた。「夫との思いの差は埋められない。この場所で娘を学校に通わせ、私も友だちをつくって生きていきたい」
●気持ちはき出せる場所、各地に
震災をきっかけとした夫婦や家族関係の悪化、DVに悩む女性は多い。
昨年3月11日から12月末までに宮城、岩手、福島の各県の警察署が受けたDV相談のうち、震災との関連が明確な事例は98件。震災後に酒量が増えた夫からの暴力などで、内訳は宮城が70件、岩手14件、福島14件。
DV相談を受けているNPO法人ハーティ仙台の八幡悦子・代表理事は「今後、弔慰金を使い果たし、失業手当が切れ、経済的に厳しくなるとDV被害が深刻化するのではないか」と懸念する。
DVを含めた震災後の苦悩を打ち明けられるように、相談の場が各地に設けられている。
岩手県宮古市のショッピングセンターに昨年7月、国やNPO法人が共同で「女性の心身の健康相談室」を開いた。相談員は助産師や心のケアの専門家たちだ。
買い物の途中に女性たちが立ち寄り、30分、1時間と話しこんでいく。最初相談に来た時は無表情で、3回目に訪れ、涙をこぼした女性もいる。「私、こんなにしんどかったんだ」と。
国は今月、集中相談事業をスタートさせた。岩手、宮城、福島の3県に11の拠点を作り、電話や対面での相談を受けている。地元の相談員約50人に加え、全国のNPOなどの相談員約150人が交代で派遣される。
相談員の中には仮設暮らしの人や身内を失った人も。岩手県内の相談員の一人は夫を亡くした。「私も身近な人には『大丈夫よ』と言ってしまう。気持ちをはき出す場が必要なんですね」
(山田佳奈、諸麦美紀)
朝日新聞大阪版 2012/02/28
◆あの日から、まもなく1年。悲しみや憤りを抱え、女たちは日々を生きてきた。彼女たちの今をみつめ、明日へと助走する姿を3回連載で伝える。
■国の集中相談・連絡先
【岩手】0120・240・261(午前10時~午後5時)
【宮城】0120・933・887(月~金は午前8時半~、土は午前9時半~、日祝は午前10時~午後4時45分)
【福島】0120・207・440(午前10時~午後5時、土日祝休み)
※岩手・宮城は県内発信のみ、福島は全国から受け付け
協力:国際協力NGOオックスファム・ジャパン
URL:www.oxfam.jp