「津波で家を失いました。だけど、ある意味、それよりしんどかったかもしれない」

 宮城県の小高い丘に立つ仮設住宅に子どもたちと暮らす40代女性。避難所での生活をぽつりぽつりと語り始めた。
 青少年施設に約300人が身を寄せた。中高年の女性が避難所運営の中核を担った。

 少ない米で満腹感が出るようにおかゆを作った。食事は「力仕事をするから」とまず男性に食べさせ、次が子ども。女たちはわずかな残りを分け合った。水も電気も使えないため川の水で下着を洗い、支援物資の仕分けもした。

 寝起きした体育館にはついたてもなく、着替えは布団の中。プライバシーのない生活で一番のストレスは、地域の実力者であるリーダー格の女性と取り巻きに支援物資が手厚く渡っていたことだった。配布数が少ない化粧品やマフラーがひそかに彼女たちに流れていた。
「隠しているつもりだろうけど、見えちゃう。えっ、なんでそんなの持っているのって」

 親しい友人も「不正」に加担していることを知った。女性はショックで食事がのどを通らなくなった。物資の分配役を交代制にしてほしいと思ったが、言い出せなかった。

「よその地域から嫁にきた身で何を言っても通らないし、居心地が悪くなるだけだから」

 仙台市の「みやぎ女性復興支援ネットワーク(ジョネット)」の草野祐子事務局長のもとには、避難所生活で味わった女たちの本音が次々届いている。朝4時に起きて食事を作るのが負担だったこと。下着を干すと盗まれ、若い母親は授乳スペースがなくて粉ミルクに切り替えたこと。ハンドクリームがほしいなんて、わがままと思われるから言い出せなかったこと――。

 草野さんは言う。「日ごろ地域社会で自分の意見を言えない女性が、災害時に言えるはずがない。日常ではやり過ごせたことが耐え難い苦痛としてのしかかった」

 ジョネットが取り組むのは女たちの自己表現と安らぎの場をつくること。その一つが仮設集会所でのサロンだ。手芸やブログ作成の講座、ネイルケア。起業の動きにつながればとの思いもある。南三陸町を中心に約90回開いた。

 めざすのは、地域の「おばちゃんパワー」で町を元気にすること。「カワイイ、ステキと思う気持ちが女の元気になる。ハコモノができることが復興ではない。生き生きと心の通う町にするには女の力が必要だ」

 全国から「サロンで使って」と押し入れにしまいこまれていた毛糸玉や布が送られてくる。「ささやかなことかもしれないが、一人ひとりの女の思いがつながることに意味がある」と草野さんは力を込める。

 ●地域作りに本音ぶつける場必要

 「復興計画や防災計画に、もっと女の視点を」。27日、東京の参議院議員会館に、草野さんを始め、震災後の支援活動にかかわる女性や国会議員約100人が集まった。内閣府の調査では、今年度の47都道府県の防災会議の女性委員の割合は3・6%。東京、愛知、大阪、兵庫、福岡を含む12都府県は女性委員がゼロだ。

 新たなコミュニティー作りに女性の視点をどう盛り込むか。被災地で試行錯誤が続く。
 仙台市若林区にあるJR東日本の古い社宅。取り壊し予定だった2棟が借り上げ住宅となり、家を失った約70世帯が入居した。「男は外でたまってたばこを吸っているが、女たちには社交の場がない」。自治会女性部長の庄子千枝子さん(67)が区役所に重ねて要望したことが実り、昨年末、プレハブの集会所ができた。サロンや産直市の場となっている。

 庄子さんには苦い思いがある。震災当時、地域の福祉委員だったのに、高齢者に避難を呼びかけられなかった。何人も逃げ遅れて亡くなった。何で私が生き延びたの――。その自責の念から、「もっと支え合える地域を」と願う。

 だが、祭りや喫茶室の運営などアイデアを次々打ち出す庄子さんに、借り上げ住宅の住人からは「出しゃばるな」「オレは聞いてないぞ」といった声があがり、心にちくちく刺さる。「でも、いろんな考えの人が集まって一からコミュニティーを作るのだから、いろんな意見が出て当然。本音をぶつけあえばいい」と爽やかに語る。

 今回のような大災害時には地域の防災力が問われる。中央防災会議・専門調査会委員でNPO法人イコールネット仙台の宗片恵美子代表(62)は「年寄り、子ども、障害者のそばにいる女たちは地域の実情を知っている。避難経路や避難所の運営態勢、備蓄品の確保など女の目線が必要だ。女性自らが地域の防災力を検証し、改善の声を上げることが大切なんです」と強調する。
 (机美鈴)

朝日新聞大阪版 2012/02/29

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