2012年12月20日、「男女共同参画の視点からの震災対応マニュアル意見交換会」が内閣府仮設庁舎講堂にて開催されました。現在、男女共同参画局では、「男女共同参画の視点からの震災対応マニュアル検討会」を設置し、今回の震災で提起された様々な課題を解決できるよう、男女共同参画の視点から必要な災害対応について取りまとめ、地方公共団体や関係機関などに配布する文書を作成する作業が行われていますが、そのための公開ヒヤリングとして開催されたものです。私たち「東日本大震災女性支援ネットワーク」からも、複数のメンバーが参加しました。下はそのレポートです。

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まず男女共同参画局佐村局長があいさつに立ちました。「阪神淡路大震災の後、第3次男女共同参画基本計画が策定されたが、そのプランが活かされないままの震災対応になってしまった。そのために、震災対応マニュアルを作成するので、この場を意見交換の場として活かしたい」と述べました。また12月10日着任の別府審議官は、「復興庁とも兼務であるので業務の参考としたい」とあいさつがありました。

次に男女共同参画の視点からの震災対応マニュアル(仮称)構成案たたき台が示され、これに沿って検討会委員からの報告に移りました。
 

●田端八重子さん(もりおか女性センター

田端八重子さんは、被災の現場から男女共同参画局や男女共同参画センターの震災対応について述べました。

盛岡では、男女共同参画センターは避難所に指定されなかったが、それがかえってよかったといわれました。男女共同参画視点から職員が動くことができたということです。センターが避難所になると24時間被災者とつきあわなくてはならず、職員は板挟みになって疲弊したであろうというのです。

特に強調されたのは、国・地方公共団体・自治体に男女共同参画部局が置かれていることの意義、町内会、自主防災組織に日常から女性役員がいるべきこと。メンタルケア、高齢者へのケア、DV被害者へのケアなど男女共同参画視点に立った対応がのぞまれると述べました。
 

●菅野拓さん(社団法人パーソナルサポートセンター=PSC

菅野拓さんは、「主に仮設住宅支援における男女共同参画視点」として、1.どういう支援をしてきたか。2.現場の状況、3.男女共同参画視点の3点から体験を語りました。

PSCは震災発生直前に設立された団体で、2011年6月から仙台市と協働形式で事業を開始しました。生活支援事業として、仮設住宅に入居している人を対象に絆支援員、福祉の基礎知識の研修などを実施しました。

就労支援では、就労支援センター「わっくわあく」をつくり、高齢者やシングルマザーなど就労が困難な人たちのサポートをしてきました。男女共同参画の視点をとりいれて、「見守り」には、ブザーや携帯電話をもつ、訪問活動は必ずペアでおこない、仮設住宅入居者対応でも臨機応変にジェンダーの組み合わせを配慮しておこなう、就労支援紹介の際は性別による偏見をもたないなどに注意したと述べました。
 

●浅野幸子さん(早稲田大学「地域社会と危機管理研究所」客員研究員他)

浅野幸子さんは、1.マニュアルの位置づけ、2.防災マニュアルとしての重要な視点、3.災害時要援護者と脆弱性と他のガイドラインとの関係、4.マニュアルの活用に向けて、5.男女共同参画の視点からの震災対応マニュアルの主な項目といった点から報告を行いました。

具体的には、男女共同参画のとりくみは自治体の政策や地域において平時からおこなわれるべきこと、人道支援の最低基準であるスフィアプロジェクトの応用、「自助」「共助」「公助」は、局面によってどれか一つに重点が置かれるようなものでなく、どの段階でも相互に密接に関連しあうものであること、「災害時要援護者」と「脆弱性(vulnerability)」と「復元力(resilience)」との関係性などについて説明をおこないました。
 

●石井美恵子さん(公財日本看護協会看護研修学校救急看護科主任教員)

石井美恵子さんは、「避難所の環境と健康〜より快適な避難所の生活環境づくり、健康を守る〜」と題して発言しました。

これまで途上国での災害支援にかかわってきた経験から、日本が国際標準よりも劣っていることを目の当たりにして衝撃を受けたとのことで、国際基準からの対策の必要性を強調されました。日本では被災者がニーズを口にすることを遠慮したり、「避難所だから仕方ない」という意識に陥りやすいが、それは、災害時の国際基準が知られていないからなので、そういう点に着目して改善点を考えるべきと主張しました。具体的には、避難所でのメンタルケア、感染症に対するアセスメント、高齢者の褥瘡・肺炎予防(寝たきりの防止)、福祉避難所への簡易ベッド、ラップ式室内トイレの配置、生活水の確保等の必要性を説かれました。

また、行政が災害時に立ち上げる「災害対策本部」は縦割り組織であるため、被災現場との乖離が生じると指摘し、その点外部から入る直接支援団体は、「現場のニーズ」をよく知ることができる立場にもあり、重要な貢献ができるはずだが、「災害対策本部」にアクセスが難しいという問題がある。適切なパートナーシップを構築するためには、国際人道支援の現場で採用されている「クラスター・アプローチ」が有効ではないかと主張しました。

*「クラスター・アプローチ」については、下記を参照。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jindo/jindoushien2_2y.html
 

●清原桂子さん(公財ひょうご震災記念21世紀研究機構副理事長

座長でもある清原桂子さんは、「女性と少女たち―リジリエンスのための目に見える(みえない)力(Women and Girls – the “[in]Visible Force of Resilience”)」という2012年国連「国際防災の日」(10月13日)のテーマに言及しつつ、災害時の女性や少女への認識をあらためるべきと述べました。すなわち「被害者」としてのみとらえず、災害への「復元力(resilience)」をもった主体であるとし、災害管理やコミュニティ再建の役割を担うものであるという観点からマニュアルは作成されるべきだということでした。

*「2012年国際防災の日」については、下記を参照(「国連国際防災戦略」(UNISDR)が設置しています)。
http://www.unisdr.org/2012/iddr/about.html

また、地域独自のマニュアルづくりは官民協働で行われるべきこと、「要請主義」からの脱却、男女共同参画センターの役割と使命、災害時に配布するコンパクトマニュアルづくり、外部からの人材活用、男女共同参画センター職員へのマニュアル活用研修の実施等の提案がありました。
 
 

報告終了後、フロアからの発言に移りました。当ネットワークからは、下記を要望しました。

・「災害時要援護者」として一人暮らし高齢者の所在把握のことがよく話題になるが、次期計画では災害を1分野として独立させようという話もあるので、ジェンダー観点からの「災害リスク削減」のようなことに踏み出せないかと思う。自治体水準でそのような意味をもつ施策が実施できるような書き方はできないか。
・様々なデータの男女別の把握は非常に重要だが、市町村職員の負担が大きいということで抵抗が強い。なにかしくみが必要である。
・LGBTについて、避難所等で声をあげにくかったというような話を聞いているので、「性的少数者」という表現にするかどうかも含め、工夫して掲載してもらいたい。
・支援が世帯単位であることの不都合も聞いている。法改正が必要な部分もあるが、なんらかの書き込みがあるといい。
・母子父子支援が遺児支援に限られており、災害に脆弱なもともとの母子父子に目が行っていないということも考慮されるべきだ。

他には、若者や思春期の子どもへの対応、障害者、男性への対応、外国籍女性への対応、各級行政レベルの職員の男女共同参画視点を養うための援助やしくみづくりなど。中でも「マニュアル」という表記については、「マニュアルだけ守っていればよいという意識になりがち」「マニュアルは行政向けのものに思える」などの理由で「ガイドライン」「基準」などに変えたほうがよいという意見が多く聞かれました。この点については、清原委員も、「考え方を理解しないままの表層的なマニュアルの運用はかえって弊害になることもある」と指摘していました。

最後に佐村局長が「災害マニュアル」が市町村レべルまで浸透することが重要だと述べ、そのための方法を考えたいと述べました。また、別府審議官も、勉強になったことが多く、今後に活かしたいと結びました。この「マニュアル」は、2月に内容のとりまとめを行い、行政職員を対象とした意見交換会を経た上で、来年度に公表されます。男女共同参画局では、この「マニュアル」をもとに、全国数カ所での意見交換会を兼ねた研修会を実施する予定だそうです。

当日配布資料PDFファイル
http://www.gender.go.jp/saigai/ikenkoukan/pdf/ikn_01_ikkatsu.pdf

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