東日本大震災では、阪神淡路大震災の経験を活かせずに弱者の立場にいる人たちの声が閉ざされてしまったケースが続出しました。

例えば男性リーダーのいる避難所では、みんなの顔が見えた方が安心という理由で段ボールで仕切ることすら出来ないなど、避難所の運営に女性が関われないことなどがその原因でした。女性など弱い立場にいる人は声を上げることが難しいゆえ、様々な困難を抱えた人に対するきめ細かな配慮が求められますが、その視座は日常においても性別役割分業が根強い日本においては、非常時はジェンダー秩序が更に増幅されるからこそ大切にされなければならないにもかかわらず、その仕組みは出来ていません。

私たちは意志決定機関への女性の参画を促進させることを目的とした具体的行動として、豊島区職員の女性管理職が少ない(豊島区の女性管理職はここ数年10%前後で推移しており、上昇の気配がみられなかった)ことに対して苦情処理機関を利用して女性管理職比率を20%に増やすように要請し、その線に大方沿った勧告(意見表明)を得てきました。

東日本大震災で再び注目されたことの一つに、防災会議における女性比率が極端に低い状況が続いていることが挙げられます。

都道府県単位でみても女性委員ゼロの所が未だに有り、豊島区でも46人の防災会議メンバーのうち女性は僅か1人で女性比率2.2%という有様を何とかしなければとの思いから豊島区に掛け合ったところ、「充て職(※1)だから現状を変えるのは難しい」との返答でした。

そこで私たちは苦情処理機関にこの問題を託すことにしました。豊島区では女性の視点を取り入れた答申を防災会議に上げるための委員会(女性比率約90%の「女性の視点による防災復興対策委員会」)を一般市民主体で立ち上げましたが、決定を下すのはあくまで防災会議だったからです。苦情の申し出の趣旨は”防災会議委員に占める女性の割合を30%確保すること”にありました。豊島区男女共同参画推進条例に基づいた苦情処理機関への苦情の提出は2012年6月であり、2013年に入って勧告(意見表明)が出ました。以下に苦情等の申し出の概要を記載します。

 《2011、3、11東日本大震災において女性及び弱者が災害復興の中で不利益をこうむりました。にもかかわらず現状では防災計画を策定する防災会議における女性委員の比率が極端に低く10%にも達していません。災害時における女性を巡る諸問題が確認出来ず埋もれてしまう心配が有ります。 国の第3次男女共同参画基本計画では防災における施策の基本的方向として「被災時には増大した家庭的責任が女性に集中すること等の問題が明らかとなっており、防災(復興)の取り組みを進めるに当たっては男女のニーズの違いを把握して進める必要がある。これら被災時や復興段階における諸問題を解決するために、男女共同参画の視点を取り入れた防災(復興)体制を確立する」とあり、続けて具体策として「防災分野における女性な参画の拡大」「防災の現場における男女共同参画」等が挙げられています。
意志決定の場における女性の参画をはかり防災の諸問題を解決するため、また「女性の視点による防災・復興対策委員会」を活かすためにも防災会議に女性委員を30%は入るようにしてください。
またその30%の中に女性の医師、看護師、保健師、カウンセラー、ソーシャルワーカー、栄養士、保育士、建築士、都市計画家、教職員など暮らしにかかわる女性専門家が参画できるようにしてください。その他、一般の委員にもセクシュアル・マイノリティの方や障害女性、外国籍女性を入れてください。》

以上の苦情申し出についての苦情処理機関からの勧告(意見表明)の要旨は以下の通り。

 《区は平成23年(2011年)に策定された「第3次豊島区男女共同参画推進行動計画及び豊島区配偶者等暴力防止基本計画」において、区の附属機関・審議会等の女性参画率を平成28年度(2016年度)までに現行の25.8%から、現在準備を進めている条例の改正等を迅速に進め、申し出の30%のみならず、40.0%に引き上げるとの計画目標が定められたことに基づき、防災会議の委員の女性比率を平成28年度(2016年度)までに40.0%に引き上げるようにしてください。》

豊島区では現在、女性・生活者の視点の導入を一つの柱とし、さらに豊島区男女共同参画推進行動計画の目標達成に向けて、防災会議の委員構成を検討しているとのこと(現在豊島区の防災会議は48名中、女性4名で女性比率8.3%)。 なお、苦情申し出の後段部分である女性専門家や様々なマイノリティについての意見表明は以下の通り。

《豊島区防災会議は、商業施設や小売業者の団体や、保育園・幼稚園から大学等の教育関係団体をはじめ、社会的弱者を支える福祉関係者や外国人の団体など、多様な区民・関係者の意見が反映される委員により構成されることを期待します。》

となっています。後段については「期待」という言葉で将来への希望としてはぐらかされましたが、前段部分の女性比率についてはこちらの願望を上回る申し分のない返答を得ました。

豊島区の苦情処理機関は2名の苦情処理委員と2名の専門調査員(いずれも弁護士)からなっており、私たちの会は毎年1件の苦情処理案件を出すことを目標の一つとして活動しています。現在の苦情処理委員は2代目。苦情処理委員の資質や自治体の取り組み状況に左右される可能性はありますが、使い方によっては苦情処理制度は大いに役に立つことを認識していただきたいと思います。

※1 「充て職」
(官公庁用語)ある職に就いている人に他の職を兼任させること。または、ある職に就いている人の身分・地位をそのままに他の職に従事させること。例えば、県知事が関連団体の理事長を兼ねる、また、裁判官が法務省で法務行政に従事するなど。

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