佐藤信行(外国人被災者支援プロジェクト運営委員/在日韓国人問題研究所<RAIK>所長)

●7万5千人の外国人被災者

3月11日、東日本大震災で被災した青森・岩手・宮城・福島・茨城の5県には、9万人の在日外国人が暮らしていた。そのうち、災害救助法が適用された市・町・村に住む外国人は7万5281人。その内訳は、中国2万7千人、韓国・朝鮮1万2千人、フィリピン9千人、ブラジル7千人、タイ4千人……と続き、在留資格別では「永住者」1万9千人、「日本人の配偶者等」8千人などとなる。

しかし、地震・津波・原発崩壊から9カ月たった現在でも、私たちは外国人被災者に関する情報を断片的にしか知り得ていない。それは、外国人被災者の居住地が5県にわたり、また154の市・区・町・村のあまりにも広範囲に及ぶこと、外国人のほとんどがコミュニティを形成することなく地域社会の中で孤立して生活してきたこと、そして日本社会において周縁化されてきたからである。

私たちは9月に「外国人被災者支援プロジェクト」を立ち上げ、1990年代以降、東北の農村・漁村へ日本人との国際結婚で移住して来た中国人女性・韓国人女性・フィリピン人女性たちとその子どもたちに対する調査からまず始めることにした。
●被災した移住女性

私たちは第一次調査として宮城県下のキリスト教会や国際交流協会などのルートを通して、移住女性の面接調査を行なった。その100人余りの調査票から抜粋してみる。

<仙台市とその周辺>
◆韓国人Aさん◆66歳。(日本に来て)35年在住。震災にて店が損壊し、4月に閉店。夫・日本人(76歳)も高齢であり、店の再建は不可能。
◆韓国人Bさん◆57歳。30年在住。家屋の壁が崩落し、家財すべて損壊するも、「一部損壊」認定。夫・韓国人(56歳)が失業し、子ども(高2)の教育費が困難。

<県北地区>
◆韓国人Aさん◆48歳。夫・日本人(55歳)。家の天井が崩落、家財すべて損壊、家屋が傾斜するが、「一部損壊」認定。養鶏の鳥が全部死。
◆韓国人Bさん◆56歳。家屋の壁崩落、家財損壊するも、「一部損壊」認定。夫・日本人(59歳)は農業を営むが、農機具も損壊。夫の母(83歳)・弟(56歳)と同居。
◆韓国人Cさん◆57歳。在住8年。夫・日本人(63歳)は震災後、無職に。自宅のローンの支払いも困難に。震災後の心労で体重が15キロ減少し病気になってしまったが、入院もできず、自殺を図る。
◆フィリピン人Dさん◆39歳。在住14年。震災後に夫・日本人(60歳)が急病で死去。夫の借金があり、財産をすべて処分。わずかなお金と、子ども4人(小学6年・3年・2歳・1歳)が残される。ほとんど雇用機会がないため、無職。
◆韓国人Eさん◆53歳。家屋などに被害が出るも、「一部損壊」認定。夫・日本人(54歳)、夫の母(87歳)、子ども2人(高3・中2)。震災で農業被害があり、現在も野菜作りがうまくいかず、生活が困難。妻として固定収入を望むが、雇用状況が悪く働けない。現在も通院中。
◆韓国人Fさん◆47歳。在住10年。家屋が一部損壊。夫・日本人(54歳)は会社員。子ども1人(小学3年)、夫の母(83歳)・弟(53歳)と同居。6年ほど仕事に就くが、交通事故で体を悪くし、仕事ができない。早く体を直して仕事をしたいが、就職が困難。

<県南地区>
◆韓国人Aさん◆57歳。夫・日本人(56歳)は無職。家屋・屋根瓦が崩落、家財すべてが損壊するも、「一部損壊」認定。震災後1週間は避難所生活。
◆韓国人Bさん◆58歳。在住9年。夫・日本人は震災後に心労と風邪から病気になり、半年入院後、9月に死去。夫の親類との財産協議が未だできていない。

<沿岸周辺>
◆中国人Aさん◆37歳。津波で家が全壊。仮設住宅にて夫・日本人(48歳)、子ども2歳と4歳の娘と生活。夫は現地に雇用がないため仙台に通いで仕事をしている。自分も家計を支えるため、子どもを幼稚園に預け、地元の民宿にてアルバイト中。
◆中国人Bさん◆在住14年。津波で家が全壊。夫・日本人(60歳)が津波にて死去。仮設住宅で子ども2人(小学3年と6年)と住む。夫が保険等にも未加入であったため義援金のみ。相続する財産もない。地元の民宿にてアルバイト中。
◆フィリピン人Cさん◆夫・日本人が震災後に無職になり、病気になったため、家計を支えるために3歳の子どもを抱え、別の市にて仕事に就いている。
◆韓国人Dさん◆56歳。津波で家が床上浸水。夫・日本人(66歳)が骨折の重傷で、2カ月間入院。夫の年金で暮らしていたが、経済的に苦しくパートに出る。だが、ストレスで仕事ができない状況。
●在日韓国・朝鮮人の高齢者

被災した5県の韓国・朝鮮人1万4千人のうち、約6千5百人が戦前から日本に住み日本で生まれ育った「特別永住者」の在日一世・二世・三世・四世である。その居住地を見ていくと、都市部に集中する一方、5県のほぼ全域の市・町・村に1人~80人ずつ居住していた。いわば、地域社会にひっそりと暮らしていたのであり、被災後さらに孤立している。しかも、その15%近くが65歳以上の高齢者であり、彼ら彼女らのほとんどが「無年金」である(国籍条項が撤廃された際、経過措置がとられなかったからである)。関西などの各自治体では、無年金の外国人高齢者・障がい者に対して「福祉給付金」として月額1万~2万円を支給しているが、青森県では0、岩手県では1市・1村、宮城県では1市、福島県では0、茨城県では9市・2町が支給しているだけであった。つまり、被災した在日韓国・朝鮮人の高齢者のほとんどが、無年金のまま放置されてきた。いま被災地では、高齢者の自立生活と介護が大きな課題となっているが、とりわけ在日韓国・朝鮮人の高齢者の場合は深刻である。

●7万5千人の協働者が必要

11月8日、外国人被災者への支援に取り組む市民団体や教会関係機関、国際交流協会に呼びかけて、仙台でシンポジウムを開催した。それぞれの現場からの報告は私たちを勇気づけるものであったが、「今後の共同課題」を定立するには至らなかった。それは、対象とする領域と範囲があまりにも広すぎること、外国人被災者が直面している問題の一つ一つが容易な解決を見いだせるものではないからである。

しかし私たちは、孤立して困難な状況に置かれている外国人被災者一人ひとりの安否を確認して励まし、一人ひとりの生活が再建されるための働きをしなければならないだろう。外国人被災者7万5千人には7万5千人の協働者が必要であり、震災復興とは「もとの生活と地域社会」が「多民族共生社会」へと再生されなければならないからである。

12月、私たちは地元の大学研究室との共同で、各市、各町ごとに外国人実態調査を行ないながら、支援の輪を確実に広げていくことにした。

*「外国人被災者支援プロジェクト」の最新情報は、下記のホームページを参照してください。
・仙台キリスト教連合被災支援ネットワーク(東北ヘルプ) http://tohokuhelp.com/
・外登法問題と取り組む全国キリスト教連絡協議会(外キ協) http://gaikikyo.jp

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